かつて大昔の人間はオオカミを家畜化して犬を生み出す過程で、”吠える”という行動を強化してきました。
番犬や猟犬、使役犬など、”吠える”という犬の行動が役立つ場面は数多く存在します。
しかし現代では、愛玩犬としての良き伴侶、家族の一員として、人間と共に暮らしている犬の方が圧倒的に多く、犬に求める役割が大きく変わってきています。
そうした時代の変化によって、かつて大活躍していた犬の”吠える”という行動は、現代では代表的な問題行動として訴えられるようになってしまいました。

人間っつーのは都合の良い生き物だなぁ
とはいえ、犬の吠え声が近隣の騒音トラブルに繋がる可能性があるのも事実です。
そんな犬の吠え声ですが、厄介なことに、犬の吠えは正しいしつけ方、対策を施さなければ多くの場合で悪化の一途を辿ってしまいます。

色々試してみたが全く良くならない…

改善させようとしたら前より悪化してしまった…
こんな飼い主さんも多いのではないでしょうか?
そんな愛犬の吠えにお困りの方々のために、この記事では犬の警戒吠えに焦点を当て、
- 犬が警戒吠えを学習してしまう原因は何なのか
- 原因から考える正しいしつけ方・対策
を丁寧に解説していきます。
この記事を読めば、
- どういった吠えが警戒吠えに分類されるのか
- 警戒吠えをする犬の心理状態
- 正しい警戒吠えのしつけ方
- 警戒吠えに悩まないための事前対策
を学ぶことができるでしょう。

それじゃあ、早速行ってみよう〜
警戒吠えってどんな吠え?

本題に入る前に、警戒吠えとは犬のどのような吠えのことを言うのか、定義をはっきりさせておきましょう。
犬の吠えは、学習のプロセスから下記の2種類の吠えに分類することができます。
- 要求吠え
- 警戒吠え
この2つはどちらも吠えるという行動ですが、吠えた結果、その犬が得られるメリットが異なります。
つまり、”吠えの機能”が異なるのです。
要求吠えはその名の通り、犬が要求をする時の吠えのことを言います。
- 食べ物
- 散歩
- 注目
などなど
物体とは限りませんが、とにかく何かが欲しくて吠えているのです。
そして、吠えた結果”それ”が手に入ってしまうことで学習が成立しています。
そんな要求吠えを解決するには、吠えをただ無視するだけでは治りません。
むしろ悪化してしまう可能性の方が高いでしょう。
要求吠えを改善するには、愛犬に”吠える”以外の望ましい要求行動を教えてあげる必要があります。
今回は警戒吠えについての記事ですので、要求吠えについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてみてください↓
一方で警戒吠えは、吠えて”不快なもの”を退けることでメリットを生み、学習が成立しています。
何かが手に入ってメリットが生まれる要求吠えとは、真逆の学習が働いているわけです。
つまり、要求吠えとは対策も全く異なるということを意味します。

一口に吠えといっても、どちらに分類されるかで必要な対策は180度変わるってことだね
愛犬の吠えが警戒吠えかを見極めるには、
- 「対象」→何に対して吠えているのか
- 「結果事象」→その対象がどうなることで吠え止むのか
この2点を意識して観察する必要があります。
概要だけ説明されてもピンとこないと思うので、具体的な例を挙げながら説明していきましょう。
インターホンに対しての吠え
警戒吠えで代表的なものに、インターホンへの吠えがあります。
これには、悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
この場合は、インターホンという音声刺激に対して吠えている訳ですが、
鳴れば必ず吠えるインターホンの音も、もともとは愛犬にとって何の意味も持たない音だったはずです。
しかし、
インターホンの音が鳴ると、来客が来る
ということが繰り返されると、インターホンの音が来客の前触れであることを学習していきます。
多くの犬にとって、得体の知れない来訪者が自分の縄張りに入ってこようとすれば警戒するのは当然の反応でしょう。
つまり、インターホンへの吠えは”来客”という愛犬にとって不快である対象に向けられた吠えであることが分かります。
それでは、愛犬が吠え止むのはいつでしょうか?
仮に、荷物の配達が来たとしましょう。
インターホンが鳴って愛犬が吠え始め、荷物の受け取りが終わり、配達員がいなくなるまでは多くの場合で吠え続けているのではないでしょうか。
場合によっては、配達員がいなくなってもしばらく吠え続けていることがあるかもしれません。
しかし、大抵の場合は配達員の気配が完全に消えた段階で吠え止むことが多いはずです。
逆にいえば、配達員の気配が感じ取れる限りは吠え続けていることが多いでしょう。
これを、吠えた後の”結果事象”がどうなっているのかという視点で整理してみると、
愛犬が吠えた結果、不快な来訪者がいなくなった
と捉えられる訳です。
愛犬の心理状態としては、

不快な来訪者は尻尾を巻いて逃げていったゼ!ざまあみろ!
といった具合でしょう。
窓から見える人などに対しての吠え
これも警戒吠えの代表的な例であると言えます。

自宅の窓から見える”何か”に吠えて困る…
実際に、このような相談はよく聞く話です。
- 犬
- 車
- カラス
などなど
人だけではなく、吠える対象は非常に様々あります。
何に対して吠えているのか?
この場合、吠えている対象を分析すること自体はそこまで難しくないでしょう。
しかし、吠えている対象が分かっても、それだけでは要求吠えか、警戒吠えかの判別はできません。
そこで、もう一つのポイントである、吠えた後の”結果事象”を観察してみましょう。
窓の外を通り過ぎていく人などは、あなたの愛犬が必死に吠えていたとしても、おそらく多くの場合で何事もなく通り過ぎていくのではないでしょうか。
しかしながら、この”何事もなく通り過ぎる”ということが、実は犬の警戒吠えの学習に深く影響しているのです。
犬がどう思っているのかなどの主観的な部分はおいておき、客観的に状況だけを整理してみましょう。
- 犬は窓越しに人などの視覚刺激を捉える
- 捉えたと同時に吠えが生起
- 吠えている最中に人などは去り、いずれは視覚から消える
- 視覚から消えるのを確認したら、吠えも消失する
人などを認識した時点で吠え始め、吠えた結果事象としてその対象がいなくなる
つまり、上記のことが繰り返されているという訳です。
”吠える”という行動が繰り返されるということは、愛犬にとってメリットのある結果が伴い、学習が成立しているということであり、
上記の状況から、窓から見える人などの視覚刺激が遠ざかるということが、その犬にとってのメリットになっていると分析できます。
逆説的に、その犬にとって窓から見える人などは不快なものであるとも言えるのです。
不快なものを退け、メリットを生んでいることが分かるため、ここまで分析して初めてこの吠えは警戒吠えであると断定することができます。
他犬と遭遇した時の吠え
散歩中の吠えもよくあるお悩みのひとつでしょう。
中でも、他犬と遭遇した時の反応は強烈であることが多い印象です。
しかし、この吠えにも、要求吠えとして学習しているパターンと警戒吠えとして学習しているパターンが存在します。
特に他犬に対する吠えは、どちらも似たような状況で吠えが生起するため、対策には慎重な分析が必要です。
今までの説明から、警戒吠えが起こる対象はその犬にとって不快な存在であるということは理解いただけたと思います。
対して、要求吠えはその真逆であることも説明してきました。
つまり、同じく吠えていても、愛犬の心理状態は全く真逆の状態になっている訳です。
しかし、一見どちらも同じようなタイミングで吠え始め、同じようなタイミングで吠え止むことが多いため、なかなか判別しづらいでしょう。
下記に、よくある例を示してみました。
先ほどと同様に、客観的に環境を整理して見ていきましょう。
- 愛犬が反対側の歩道を歩いている犬を発見
- 愛犬が吠え始める
- すれ違った後、ある程度距離が離れて吠え止む
実は、この判断材料ではまだどちらとも断定ができません。
その理由は以下の通りです。
警戒吠えだった場合
- 愛犬が反対側の歩道を歩いている犬を発見→不快
- 愛犬が吠え始める→警戒・威嚇
- すれ違い、ある程度距離が離れて吠え止む→安堵
要求吠えだった場合
- 愛犬が反対側の歩道を歩いている犬を発見→期待
- 愛犬が吠え始める→要求・アピール
- すれ違い、ある程度距離が離れて吠え止む→諦め
客観的な観察結果としては似たような結果になっていますが、犬の心理状態・主観的な点を踏まえて考えるとどちらとも断定できないことが分かると思います。
犬の心理状態は全く違う動きをしていますが、どちらもその場において最適な行動として”吠え”が選択され、それぞれ得られた結果は違えど似たような状況で吠えが消失している訳です。
このような場合、極論犬を実際に引き合わせてみれば答えはすぐに分かります。
引き合わせてみて、嫌がったり攻撃的になったり逃げたりすれば警戒吠えでしょうし、
逆に大喜びで遊び始めたら、それは要求吠えでしょう。
とはいえ、この方法はおすすめしません。
万が一喧嘩にでもなれば、大切な愛犬が怪我をする恐れもありますし、逆に相手に怪我を負わせてしまう場合もあります。
自分の愛犬の行動が読めない場合は、犬同士を引き合わせないよう配慮するか、専門家立ち合いのもと行うことを強くおすすめします。
それではどうすれば良いのでしょうか?
これを判別するには、犬のボディランゲージに着目してみましょう。
ここでよくありがちな間違いは、尻尾のみを参考にしてしまうことです。
尻尾を振っているから喜んでいる!
この認識は大きな間違いです。
尻尾の振りは単に興奮を表しており、喜んで興奮している時も、怒って興奮している時も犬は激しく尻尾を振ります。
実際に喧嘩をしている犬の動画などを見ると、劣勢で逃げ腰の犬以外は例外なく尻尾を振っているでしょう。
参考にYouTubeにあった動画を紹介します↓
※動画の3分頃〜犬が咬まれてしまう映像が流れます
尻尾だけを頼りに観察をして、愛犬の心理状態を見誤ると動画のようなトラブルの原因になってしまいます。
もちろん尻尾も参考材料の一つですが、他にもいくつか併行して確認するべきボディランゲージがあるのです。
- 体勢→前傾姿勢or腰が引けている
- 耳→寝ているorピンと立っている
- 吠え声→鼻を鳴らしたり比較的高めの声or唸りも混ざった低い声
などなど
上記の例でいうと、前者の場合は要求吠えである確率が高く、逆に後者である場合は警戒吠えである可能性が高いでしょう。
しかし、あくまでこれらはひとつの例です。
ボディーランゲージは個体差が大きく、学習によっても変化するため、判断が難しい場合は専門家に介入してもらいましょう。
このように判断が難しい場合は、客観的な観察と犬のボディーランゲージを組み合わせて分析していきます。
警戒吠えをしてしまう原因

それでは、なぜそもそも警戒吠えをしてしまうのでしょうか?
これには、警戒吠えが発生してしまう原因と、警戒吠えが継続してしまう原因の2つが存在しています。
この2つは、ずばり幼少期の経験不足とその後の飼い主の間違った対応によってもたらされるのです。
幼少期の経験が不足することで、臆病で警戒心の高い犬が育つ可能性が高くなり、警戒吠えが発生する確率が高くなってしまいます。
また、それにより発生した警戒吠えは飼い主の間違った対応でさらに学習されて繰り返されてしまうのです。
それぞれ詳しく確認していきましょう。
社会化不足
幼少期の経験値が非常に重要な理由として、犬の幼少期には社会化期と呼ばれる時期が含まれていることが関係しています。
社会化とは、
今後生活していく社会で晒される刺激に対して、順応する力を養うプロセスのこと
今後生きていく環境の刺激への順応力を養う必要があるため、都市部で暮らす犬と地方で暮らす犬では必要な社会化も異なると言えるでしょう。
都市部では、電車の乗車に関わる社会化が必要な場合もあるでしょうし、地方では野生動物などへの社会化が必要な可能性もあります。
この社会化ができる期間は、産まれてから目の開き始める生後3週齢頃から、脳の扁桃体という器官が発達しきる生後12週齢頃までしかありません。
扁桃体→脳内の恐怖や不安という感情を司る器官
そのため、この扁桃体が成熟するとそれまでに経験したことのない刺激には過度に警戒してしまうようになります。
それがゆえに幼少期の経験、特に生後3週齢〜生後12週齢頃までの経験が非常に重要なのです。
何度も説明していますが、警戒吠えをする犬はその対象に対して不快感を抱いています。
ここでの不快とは、純粋に嫌いということもありますが、それよりも犬の場合は恐怖や不安を抱えていることが多いです。
犬も、生まれた瞬間から家族以外の人や犬、車などに恐怖や不安を抱えているわけではありません。
これらは、社会化期に経験の乏しかった未知の刺激であるため恐怖や不安を感じてしまい、後天的に警戒すべき対象だと学習してしまうのです。
もちろん元々警戒心が高いなどの遺伝的な素因も少なからず関係していますが、幼少期の経験次第では遺伝的な素因を上書きする可能性を十分に秘めています。
クライアントの中には、野犬から産まれた子を生後2週間ほどで保護したものの、警戒心や恐怖心から家族以外に非常に攻撃的になってしまうと相談に来た方がいました。
同じ親から産まれた同腹の子は別の家庭に引き取られたそうですが、その子は非常にフレンドリーに育っていたという事例もあります。
それだけ、幼少期の生育環境や経験値はその後の性格形成に大きな影響を与えるだけでなく、遺伝的な素因を覆す大きなパワーを持っているのです。
吠えの学習
恐怖や不安を抱えた時に選択する行動は、犬によって十犬十色です。
- 逃げる
- 唸る
- 咬みつく
- 固まる
- 震える
などなど
もちろんその中には、”吠える”という威嚇射撃を選択する犬も数多くいます。
つまり、社会化が不足して成長した臆病な犬は、そうでない犬に比べて格段に吠える確率が高まってしまうということです。
そして残念なことに、飼い主の多くは恐怖心を抱えて警戒吠えをしている犬に対して間違った対応をしてしまうことが多いのです。
その間違った対応により、警戒吠えをすることで成功体験を多く積んでしまい、よく吠える犬が誕生してしまいます。
それでは、必死に警戒吠えをしている犬にとっての成功体験とは何でしょうか?
まず明らかなのは、不安のもとである対象が近くにいれば間違いなく居心地が悪いということでしょう。
この不快な状態に身を置いている時に、吠えることでその不安の対象を追い払うことができれば、それはその犬にとって成功と言えるのではないでしょうか。
例を見てみましょう。
- 散歩中に他犬と遭遇
- 愛犬が犬を発見→吠え続ける
- すれ違い、他犬が遠ざかると吠え止む
上記の例はよく見る光景です。
これは一見、ただ通り過ぎているだけのように見えますが、警戒吠えがしっかりと学習されてしまう要因が揃ってしまっていることにお気づきでしょうか?
犬がどう思っているにせよ、吠えている最中にどんどんと不快な相手との距離が離れていくことは事実です。
吠え続けた結果、不快な対象と距離を取ることに成功しているため、このままでは着実に警戒吠えを学習し続けてしまいます。
必死に警戒吠えをしている犬の目線では、

俺が一生懸命吠えたから、あの不快な野郎は尻尾を巻いて逃げていきやがったゼ!
といった具合に認識してしまっているかもしれません。
また、もう一つ小型犬の飼い主によく見られる例があります。
それは、吠えた直後に抱っこをしてしまうことです。
体の小さい小型犬の場合、抱っこしてしまった方が対処が楽なのは理解できますが、行動の直後の結果が学習に大きな影響を与えるという事実を思い出してください。
不安に駆られた犬は、飼い主に抱かれることで安心を手にいれることができます。
つまり、警戒吠えをしている犬を抱き抱えることは、吠えた直後に安心という報酬を与えてしまっていることになるのです。
このように、よく見る犬の警戒吠えに対する飼い主の行動は、図らずも望ましくない学習の手助けをしてしまっています。
犬の学習は、人間の都合や認識などとは一切関係なく進んでしまうことを念頭に置いておきましょう。
大切なのは、行動の直後の結果
警戒吠えの正しいしつけ方

社会化不足や飼い主さんの間違った対応についての説明を読んで、「正直、ドキッとした」という方も多いのではないでしょうか。
それもそのはずです。というのも、この2つのどちらか、あるいは両方に当てはまっていなければ、そもそも警戒吠えが常態化するほど学習され続けることはないからです。

でも大丈夫!警戒吠えは正しくトレーニングすることで改善していくことができるよ!
社会化期にどのような経験を積んだかは、その後の性格や行動に大きく影響します。
そして、社会化期にしか身につけられないことがあるのも、また事実です。
とはいえ、学習というのは、生きている限り常に続いていくものです。
たとえ社会化期が過ぎていたとしても、適切な方法でトレーニングを積めば、新たな学習によって過去の行動を上書きすることは十分に可能です。
ここからは、警戒吠えの改善に向けたアプローチを3つのステップに分けてご紹介していきます。
step1:観察
兎にも角にも、まずは愛犬をよく観察することが大切です。
観察なくして、適切な対応は始まりません。
- どんな問題行動が
- どのくらいの頻度で
- どのようなタイミングで
- どのくらいの強度で
- どのタイミングでおさまるか
観察なくして分析も対策もできない
どんな問題行動であっても、上記のポイントが分からなければ、原因の分析も適切な対策も立てることができません。
案外、毎日のように愛犬の問題行動に悩まされている飼い主さんでも、これらの観察ポイントを正確に答えられる方は少ないのが現実です。
実際に、筆者のもとへ相談に来られる飼い主さんの多くも、こうした質問にはなかなか答えられません。
もちろん皆さん、一生懸命に記憶をたどって答えようとしてくださいますが、実際の愛犬の行動を観察してみると、記憶と全く異なるケースも少なくないのです。
それだけ、人間の記憶というのは曖昧で、思った以上に頼りない情報なのです。
動画での記録がおすすめ

なんとなく答えられそう…!
上記のように感じている方も、ぜひ一度、実際に愛犬の行動をしっかり観察してみてください。
可能であれば、動画で記録しておくのがおすすめです。
あとで動画を見返しながら、以下のポイントをチェックして、メモを取りましょう。
- どんな問題行動か
- どのくらいの頻度か
- どのようなタイミングで起きるか(※最重要)
- どのくらいの強度か
- どのようなきっかけでおさまるか
これらの記録は、今後トレーニングを継続していくうえで大切な指標になります。
一番大切なのは「どのタイミングで起きるか」
観察ポイントの中で特に重要なのは、「どのようなタイミングで」問題行動が発生しているのかという点です。
たとえば、愛犬が音に対して警戒吠えをする場合には、「どの程度の音量で吠え始めるのか」をしっかり観察しましょう。
インターホンの音に吠える場合は、まずはインターホンの音量を最小にして吠えるかどうかを確認してみてください。
それでも吠える場合は、YouTubeなどの音源を使って音量を少しずつ上げながら、どの段階で吠えるようになるのかを観察してみるとよいでしょう。

普段トレーニングでよく使う音源を貼っておくから参考にしてみてね
視覚刺激への反応も「距離」を観察しよう
たとえば、愛犬が他の犬や人を見て吠えるなど、視覚刺激に対して警戒吠えをする場合には、どのくらいの距離まで近づくと吠え始めるのかをしっかり観察しておきましょう。
音刺激と同様に、視覚刺激でも刺激量の強さが重要なポイントになります。
音の場合は音量によって刺激の強さが変わりますが、視覚の場合は対象との距離によって刺激量が変化します。
対象が近づくほど、像は大きくなり、犬にとってはより強い刺激になります。
問題行動解決の第一歩は「反応の起点を知ること」
音でも視覚でも共通して言えるのは、
「どの程度の刺激量で、愛犬が反応を示すか」を知ることが、問題行動解決の第一歩であるということです。
これは今後のトレーニング計画を立てるうえでの基準となり、
愛犬にとって無理のないレベルから練習を始めるための重要な情報になります。
step2:環境統制〜問題行動を「起こさせない」工夫を〜
愛犬の問題行動についてしっかりと観察ができたら、次は身の回りの環境を徹底的に統制していきましょう。
Step1をきちんと実践していれば、すでに「どんな状況で愛犬が警戒吠えをするのか」がある程度つかめているはずです。
つまり今は、その刺激をコントロールして、警戒吠えが生じないように環境を調整できる段階に来ています。
学習は止まらない。だからこそ「吠えさせない」ことが重要
何度でもお伝えしたいのが、生物は生きている限り学習し続けるということです。
警戒吠えが一度でも生じてしまえば、その行動は確実に学習されてしまいます。
ですので、トレーニングの初期段階において最も重要なのは、「望ましくない行動をこれ以上繰り返させないこと」なのです。
具体的な環境統制の方法
- インターホンに吠える場合
→ 警戒吠えが生じない程度まで音量を下げる、あるいは一時的にインターホンを切る - 散歩中に他の犬に吠える場合
→ 他の犬が少ない時間帯やコースに変更する、視界に入りにくい場所を選ぶ
小さな配慮が、トレーニングをスムーズに進める
これらの工夫は、一見すると「甘やかしているのでは?」と思われるかもしれませんが、
問題行動を引き起こさない=学習させないという観点では極めて重要な対応です。
そして、この環境統制を徹底すればするほど、トレーニングの進行はスムーズになります。
step3:おやつ攻撃〜刺激を「ごほうびの合図」に変える〜
いよいよ最後のステップでは、実際のトレーニングを行っていきます。
ここまでのstep1(観察)とstep2(環境統制)をしっかり実践できていれば、
初めてこのステップで愛犬に望ましい学習を与える準備が整ったということになります。
警戒吠えの裏には「ネガティブな感情」がある
警戒吠えが起こるということは、愛犬がその対象に対してネガティブな印象を持っている証拠です。
逆に言えば、その対象にポジティブな印象を持たせることができれば、自然と吠える必要がなくなっていくのです。
そこで活躍するのが、今回のステップ名にもなっている「おやつ攻撃」です。
おやつ攻撃とは?
特定の音や視覚的な刺激と「おやつ」を結びつけることで、
その対象が「おやつが出てくる合図」になるよう学習を上書きする方法です。
例:おやつの袋を開ける音に反応する犬

寝ていた愛犬が「おやつの袋を開ける音」を聞いた瞬間に飛び起きて駆け寄ってくる…
このような経験をお持ちではないでしょうか?
これは「おやつの袋を開ける音 = おやつがもらえる」と犬が学習した結果です。
つまりこの反応は本能ではなく、後天的な学習によるものです。
この学習プロセスを、インターホンの音や他の犬といった「警戒対象」に応用していきます。
トレーニングの具体的な流れ
以下のような流れで進めていきましょう。
- 警戒対象を犬に認識させる
例:インターホンの音、他の犬の姿など - 吠える前におやつを与える ←※ここが最重要!
- 対象を認識した=おやつが出ると学習させる
- 慣れてきたら徐々に刺激の強度を上げていく
「吠えたらおやつ」ではなく、「吠える前におやつ」が鉄則
これは、「対象が現れるといいことが起こる」と犬に感じさせるためであり、
もし吠えてから与えてしまうと、吠えることでおやつがもらえると誤まった学習をさせてしまうリスクがあるためです。
音声刺激と視覚刺激では対応に違いがある
- 音に対する吠えは、比較的コントロールがしやすく、音量調整や再生タイミングの制御が可能
- 一方、他の犬や人への吠えなど視覚的な刺激に対しては、刺激の強度を調整するのが難しいケースが多い
そんなときは「映像で練習」からスタート
実際に会う前に、まずは映像を使った練習から始めてみましょう。
- YouTubeなどで「他の犬の動画」を探す
- 吠えはしないが、「耳が立つ」「テレビを凝視する」などの微弱な反応を示す動画を選ぶ
- 必要に応じてテレビの明るさを下げ、刺激を弱める
- その上で、微弱な反応が出た瞬間におやつを与える
- 刺激に対して反応を示さなくなってきたら、刺激の強度を上げる
この流れを繰り返していくことで、愛犬の感情は「警戒」から「期待」に変わっていくでしょう。
よくあるNG例

この記事で紹介している手法は、人間の心理療法でも使われる方法で、「系統的脱感作法」や「拮抗条件付け」と呼ばれています。
これは、心理実験などを通して一定の効果が認められている、科学的なアプローチです。
しかし、どれだけ科学的に効果が認められた方法でも、手順を誤れば逆効果になってしまう危険性があります。
専門用語を覚える必要はありませんが、手順だけは絶対に間違えないようにしましょう
また、よくある誤解やNG行動もいくつかあるため、以下で紹介していきます。
❌NG例①:おやつで釣ろうとする
まず最も多いのが、おやつで気を引いてその場をやり過ごそうとするパターンです。
これは残念ながら、ほとんどの場合うまくいきません。
犬は思っている以上に賢い
飼い主が「おやつで釣ろう」としている時点で犬は、

これはもらえないやつだ
と気づき、多くの場合ですぐに興味を失ってしまうでしょう。
記事で紹介している方法の本質
このトレーニングは、「おやつで気を逸らす」ための方法ではありません。
警戒吠えの対象そのものを、「おやつがもらえる合図」として学び直させる方法です。
つまり…
犬が警戒対象を認識したその瞬間、必ず「吠える前に」おやつを与える必要がある
タイミングが命!
たとえ愛犬が対象に釘付けになっていて、こちらを見ていなくても、おやつを口元に差し出してください。
それでもおやつを食べない場合は、刺激の強度が高すぎる可能性があります。
そんな時は、
- 距離をもっと取る
- 音量を下げる
などして、愛犬が反応できるギリギリのラインまで刺激を弱めてから再挑戦しましょう。
- ❌ おやつで気を引いて、その場から逃げる
→ ただの誤魔化し。学習が進まない - ✅ 対象を認識したら、こちらを向いていなくても即おやつ
→ 「あれを見るといいことが起きる」と再学習できる
❌NG例②:吠えてからおやつをあげようとする
次によくあるNG例は、警戒吠えの反応がすでに出ている状態でおやつを与えてしまうことです。
吠え始めて興奮してしまうと、おやつを口にしないタイプの愛犬であれば、このような間違いは起こらないかもしれません。
しかし中には、吠えながらでも、怒りながらでも、おやつをバクバク食べるタイプの犬もいます。
このような場合、「吠えた=おやつがもらえた」という学習につながってしまう可能性があります。
つまり、吠えたことへの報酬になってしまうのです。
吠えたということは、環境統制にエラーがあるサイン
そもそも吠えてしまったということは、step2で行ったはずの「環境刺激の統制」にミスがあるということです。
愛犬が吠えないように調整したつもりでも、刺激の強度がまだ高すぎる可能性があると考えましょう。
たとえば、
- 音に対して吠えたのであれば音量をさらに下げる
- 他の犬に吠えたのであればもっと距離を取る
といったように、環境刺激の強度をもう一段階下げた状態で再チャレンジすることが必要です。
吠えてしまったときの正しい対応
環境統制をしっかりしていても、吠えが生じてしまうことはどうしてもあります。
そんなときは、焦らずに以下の対応をしてください。
✅ 吠えてしまったらやるべき行動
- すぐに「おやつ攻撃」を中止する
- 愛犬に声はかけず、無反応を徹底して警戒吠えをする対象から距離を取る
- 刺激の強度を下げて、仕切り直す
ここで大切なのは、愛犬に声をかけないことです。

「ダメだよ」
「落ち着いて」
このような声掛けは、犬にとって注目されたというご褒美になってしまうことがあります。
興奮状態の犬に言葉は届きにくく、むしろ逆効果になることも多いのです。
そのため、吠えてしまったときには完全に無反応を貫き、即座に警戒吠えの対象と距離を取ることが最も有効な対応です。
❌やってはいけないこと
- 吠えた後におやつを与える
- 声をかけてなだめようとする
- 強すぎる刺激のまま続行する
✅やるべきこと
- 吠えたらおやつ攻撃を中止する
- 無反応で警戒吠えの対象から離れる
- 刺激の強度を下げて再調整する
❌NG例③:オスワリやマテなどで制御しようとする
3つ目のよくあるNG行動は、「オスワリ」や「マテ」などの指示で愛犬を制御しようとすることです。
特に、服従訓練を日頃から実践している飼い主の方に多く見られる傾向です。
必ず命令に従わせる必要はない
警戒吠えを改善するためのトレーニングでは、対象(音や犬など)を愛犬に認識させるときに「オスワリ」や「マテ」をさせる必要はありません。
実際、トレーニングが進んで対象=おやつが出てくる合図という学習ができてくれば、愛犬は自然と落ち着き、自ら対象に反応しなくなっていきます。
つまり、指示を与えずとも、愛犬が「自発的に」正しい行動を選ぶようになるのです。
大切なのは「自発学習」を促すこと
日常生活において、「オスワリ」や「マテ」といった命令が完璧にできたとしても、
興奮状態やストレスの高い場面では、命令が届かないことのほうが多いのが現実です。
そのため、命令で制御するのではなく、犬が「自分で考え、適切な行動を選べるようにする」ことが最も重要です。
飼い主の役割は「整えること」
愛犬が自分で考えて行動できるようにするためには、飼い主が「反応を引き出すための環境」を整えてあげることが大切です。
- 吠えない程度の刺激に調整する
- おやつを与えるタイミングを的確にする
- 成功体験を積ませる
これだけで、愛犬は指示がなくても自然と落ち着いた反応を選ぶようになっていきます。

愛犬の自主性を大事にしてあげたいね
❌やってはいけないこと
- 対象を見せる前に「オスワリ」や「マテ」で制御しようとする
- 命令を守らせようとする
✅やるべきこと
- 愛犬の自発的な行動変化を引き出す
- 命令せずとも落ち着ける環境を整える
まとめ:大切なのは予防!早めの対策!!

犬の問題行動においても、人の病気と同じように「予防」が何よりも重要です。
特に、社会化期(生後3週〜12週頃)に良い経験を積んでおくことは、将来「怖がり」や「過剰に吠える」といった行動を予防するうえで極めて効果的です。
この時期の経験は、あとからでは完全に取り戻すことができないほど大きな影響を持ちます。
すでに警戒吠えで悩んでいる方も、諦めないで!
今すでに警戒吠えで悩んでいる方も、決して手遅れではありません。
確かに、簡単ではないかもしれませんが、
「正しい順序」と「正しい方法」でトレーニングを行えば、警戒吠えは改善できます。
今この瞬間にも、愛犬は吠える経験を学習し続けています。
だからこそ、1日でも早く行動を起こすことが大切です。
警戒吠えトレーニングの基本ステップ
- 刺激に晒す(映像や音など)
- 愛犬が刺激を認識する
- 吠える前におやつを与える(即座に!)
- 刺激に対する反応が減ってきたら、刺激の強度を少し上げる
- 1に戻って繰り返す
このように少しずつ、地道なステップを積み重ねていきましょう。
飼い主と愛犬、どちらもストレスの少ない生活へ
警戒吠えの改善は時間がかかるものですが、正しく取り組めば、飼い主も愛犬も、互いにストレスの少ない毎日を送れるようになります。
焦らず、諦めず、今日から少しずつ一緒に進んでいきましょう。
それでは、よい愛犬ライフを!
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